株式会社メタルエンジニア
取締役社長 惣万 昇
石川県白山市 | 製造業 | 63人
板金加工、プレス加工、金型の設計・製作。レーザー複合機や単体機、タレパン、ブレーキ、プレス等多種多様の機械を取り揃え、製品の形状や数量に合わせて最適な生産方法を提案。 試作から量産まで対応できる一貫生産体制。
2026年9月14日
入社2か月で改善提案。外国人エンジニアが“戦力”になるまでの現場設計
石川県に拠点を置くメタルエンジニアは、プレス、レーザー、曲げ、マシニングなどを手がける製造業の会社です。
今回は、フィリピン人エンジニアを受け入れている同社の惣万社長を中心に、作本工場長や受入上長、エンジニア本人たちの声も交えながら、受け入れ後の変化を聞きました。
この記事のポイント
- 外国人エンジニアは、現場を知る設計があって初めて戦力化する
- 言葉の壁は、日本語力だけでなく確認方法の工夫で小さくできる
- 改善提案や長期定着には、経営側の受け止め方と役割設計が必要になる
外国人エンジニアの採用に関心はある。けれど、言葉の壁は大丈夫なのか。現場の日本人社員に負担がかかりすぎないか。せっかく育てても、数年で辞めてしまうのではないか。
地方の中小製造業にとって、外国人材の受け入れは、期待と不安が同時にあるテーマです。
石川県のメタルエンジニアでも、フィリピン人エンジニアの受け入れは、単なる人手補充ではありませんでした。日々の生産を回すだけでも忙しい中で、現場には改善したい課題がある。しかし、目の前の仕事に追われる中で、改善や自動化に十分な時間を割くのは簡単ではありません。
そこで期待されたのが、現場を理解し、将来的には改善にも関わっていける外国人エンジニアでした。
入社から2〜3か月ほど。彼らは、レーザー加工後の製品仕分けやコンベア、自動化、箱の省スペース化などについて、30ページ分ほどの改善提案をまとめました。現場の人に話を聞き、製品の重さや動き方、箱の形状まで考えた内容です。
惣万社長や作本工場長は、その提案に驚きながらも、こう受け止めました。
「できる、できないはともかく、提案してもらえるってすごい嬉しい」
この言葉には、外国人エンジニアを“人手”としてだけでなく、将来の改善人材として育てたいという期待が表れています。
最初から即戦力扱いしない。まずは現場を知る
メタルエンジニアでは、彼らを一つの部署に固定せず、2か月ごとに複数の部署を経験してもらう設計にしています。
プレス、レーザー、曲げ、マシニング、管理課。工程を横断して学ぶことで、会社全体のものづくりを理解していくためです。
これは、単に作業を覚えてもらうためだけではありません。どの工程に手間がかかっているのか。どこでミスが起きやすいのか。どの作業に改善の余地があるのか。現場を見たうえで、将来的に改善提案につなげてもらう狙いがあります。
本人たちも、この環境を前向きに受け止めていました。
「仕事は少し難しいけど、でも楽しいです」
「いっぱい学びました」
もちろん、部署が変わるたびに、新しい専門用語、人の名前、作業手順を覚えなければなりません。本人たちからも、仕事の後は疲れる、という声はありました。それでも、いろいろな工程を見られることは、エンジニアとしての学びにつながっています。
外国人エンジニア採用で重要なのは、最初からすべてを任せきることではありません。どの順番で現場を知ってもらい、どの段階で役割を広げるのか。受け入れ前にその設計を持つことが、戦力化への第一歩になります。
言葉の壁はある。だから確認方法を変える
一方で、現場では言葉の壁によるつまずきもありました。
日本語や漢字で書かれた指示を見て、製品を次の工程に回す。数量を確認する。置き場所を間違えないようにする。製造現場では、少しの理解違いがミスにつながります。
実際、入社当初は、同じようなミスが月に5〜6回ほどありました。しかし現在は、1〜2回ほどに減ってきています。
現場の方は、その変化についてこう話します。
「最初は月でも5回、6回同じようなミスをしてましたけど、今は1回、2回ぐらいですかね」
この変化は、本人の努力だけで起きたものではありません。現場側も、受け入れ方を少しずつ調整していきました。
「まだ2か月、3か月やし、分からんのはしょうがない」
そう考え、最初から完璧を求めすぎない。日本人社員や、すでに数年働いている外国人社員と同じ期待値で見ない。まず、この前提を持つことが重要でした。
そのうえで、確認方法も変えました。
「分かりましたか?」と聞くだけでは、本人は不安があっても「分かりました」と答えてしまうことがあります。上司の時間を取りたくない。分からないと言いにくい。あるいは、本人も分かったつもりになっている。
だからこそ、「何が分かって、何が分からないか」を言ってもらう。さらに、「今から何をするか、もう一度言ってください」と復唱してもらう。
本人も、作業前に指で確認する、ペンでチェックする、自分でぶつぶつ確認しながら進める、といった工夫を身につけていきました。
現場からも、「そういう面ではすごく真面目」という声がありました。
言葉の壁はゼロにはなりません。しかし、現場任せにせず、確認の仕組みを作ることで、ミスは減らせます。外国人材を受け入れるうえで重要なのは、日本語力だけを問題にするのではなく、現場側の伝え方・確認の仕方も含めて設計することです。
改善提案を、経営判断に乗る形へ育てる
30ページ分ほどの改善提案は、今回の受け入れで象徴的な出来事でした。
提案は、単なる思いつきではありません。レーザー加工後に出てくる製品をどう仕分けるか。箱の中で向きをそろえるにはどうすればよいか。コンベアやセンサーを使って自動化できないか。現場で実際に困っていることを見て、自分なりに考えた内容でした。
会社側は、提案を見てこう感じたといいます。
「普通に日本人にもないところやったんで、すごいいいところというか、評価上がりましたね」
一方で、経営者にとって大切なのは、「よい提案が出た」で終わらせないことです。
実際に導入するには、費用対効果を見なければなりません。どれだけのコストがかかり、どれだけ作業工数を減らせるのか。同じような仕組みを他社で導入した前例はあるのか。いきなり全体導入するのではなく、小さく試せる部分はどこか。
つまり、提案を経営判断に乗せるには、ROI、前例、スモールスタートの視点が必要です。
会社側も、提案をそのまますぐに採用するかどうかだけで見ているわけではありません。
「失敗してもいいし、ちょっとやれるところからチャレンジしてみようか」
そうした受け止め方があるからこそ、本人たちは「自分のアイデアを出していい」と感じられます。
外国人エンジニアの主体性を引き出すには、提案を評価するだけでは不十分です。提案を受け止め、費用対効果や実現可能性を一緒に考え、少しずつ育てていく仕組みが必要です。
定着は、給与だけでは決まらない
外国人エンジニアの定着は、給与だけで決まるものではありません。日本語教育だけで解決するものでもありません。
メタルエンジニアでは、現場の人たちが日常的に「元気ですか」「大丈夫ですか」と声をかけています。ベトナム人やバングラデシュ人の先輩とも関係ができ、英語で話せる同僚とは深い相談もしやすくなっています。
本人たちからも、職場の人について「みんな親切」「分からない時に教えてくれる」という声がありました。
こうした人間関係は、定着の大きな土台になります。
一方で、仕事、残業、日本語学習の両立には負荷があります。来日直後の数か月は、8時間働くだけでも疲れる時期です。本人の自立を尊重しながらも、困ったときに相談できる状態を作ることが欠かせません。
さらに、3年、5年、10年という長い目で見れば、もう一段の設計が必要になります。
育った人材ほど、他社でも活躍できる人材になります。だからこそ、会社としては、役割・処遇・人間関係・後輩育成をどう設計するかが重要です。
最初の1年は、現場を知る期間。その後、改善や自動化にどう関わるのか。後輩の外国人材が入ってきたとき、迎え入れられる側から、迎え入れる側に回れるのか。自分の提案が会社の中で活かされる実感を持てるのか。
長期定着とは、「いい人だから残ってくれる」という話ではありません。この会社で成長できる。この会社で役割が広がる。この会社に仲間がいる。そう感じられる環境を、経営として作れるかどうかです。
外国人エンジニア採用は、受け入れ設計で結果が変わる
今回の事例が示しているのは、外国人エンジニアは採用して終わりではない、ということです。
最初は言葉の壁があります。ミスも起きます。現場側にも教える負担が発生します。仕事と日本語学習の両立に悩む時期もあります。
しかし、受け入れ設計があれば、その不安は小さくできます。
最初から完璧を求めすぎない。2〜3か月目の人材として期待値を調整する。部署を回りながら現場を理解してもらう。指示は復唱で確認する。本人の提案を、ROIやスモールスタートの視点で育てる。そして、3年、5年先の役割まで考える。
その積み重ねが、外国人エンジニアを“人手”から“戦力”へ変えていきます。
外国人エンジニアの採用や受け入れ体制づくりに不安がある場合は、まずは自社の現場でどのような受け入れ設計ができるか、整理するところから始めてみてはいかがでしょうか。