株式会社長津製作所
取締役副社長 山野井健
神奈川県川崎市 | 製造業 | 80名
金型の設計・製造を中心に、量産成形、塗装・印刷・サブアセンブリなどの二次加工、測定・検査までを一貫して行う。金型製造と量産成形の両面で培った経験を活かし、高精度・高耐久で量産しやすい金型と、品質の高い製品・サービスを提供する。また、精密金型の技術や設備を活用した精密部品加工にも対応。
2026年9月7日
仕事の覚えは早い。課題は部署別の専門用語だった――長津製作所、外国人エンジニア3名の受入れ初期
企業・話し手紹介
金型の加工から、成形・測定による品質確認までを担う長津製作所。フィリピン出身の外国人エンジニア3名について、受入れ責任者、現場指導者、本人たちに、勤務開始後数か月の成果と課題を聞きました。
日本語全般にはまだ伸びしろがあります。そのなかで、仕事上の具体的な壁として見えてきたのが、部署ごとに異なる現場の言葉でした。
この記事のポイント
- 初期工程の習得は早く、約1か月で「段取り」をほぼ担えると評価された例もある
- 「分かりました」で終わらせず、復唱・図解・途中確認で理解を確かめている
- 約200語の一律学習から、配属先に合わせた段階学習へ見直す
初期工程では、任せられる範囲が早くも広がった
3名は、加工、成形、測定に分かれて仕事を始めました。現場担当者から共通して聞かれたのは、仕事を覚える早さと積極性です。
「仕事を覚えるのも早い。今は、言葉がネックになっている気がします」
加工担当者の一人は、勤務開始から数か月で、比較的シンプルな加工なら一人で進められる範囲が増えていました。品質保証の担当者も、受入れから約1か月余りで、成形の初期工程である「段取り」はほぼできていると評価しています。
ただし、初期工程を覚えることと、一人前になることは別です。より高度な仕事については、指導者自身も習得まで約3年かかったといいます。
最初からすべてを求めず、まず仕事を絞る。実務と日本語の成長に合わせて難度を上げる。この切り分けが、受入れ初期を安定させる前提になります。
「はい、分かりました」を理解の証拠にしない
一方、現場では、指示が本当に伝わったのか判断しにくい場面がありました。「はい」と返事があっても、細部まで理解しているとは限りません。
加工を担当するEさんは、新しい指示を受けると、内容を自分の言葉で言い返したり、図を描いて「こういうことですか」と確認したりしています。指導者も作業途中でこまめに確認し、違いがあれば早い段階で修正します。取材時点では、大きな間違いに至るケースはあまりないとのことでした。
ほかの現場では、翻訳アプリで文字を見せ、理解が不確かに見えるときは再確認しています。ただし、専門用語が正しく音声認識されないこともあります。翻訳だけに頼らず、復唱、図解、現物、途中確認を組み合わせることが必要です。
これによって現場負担がどれだけ減ったかは、まだ計測されていません。それでも、完成後ではなく作業途中で理解を確かめることが、大きな手戻りを防ぐ支えになっています。
日本人には普通でも、学習者には難しい「現場の言葉」
壁になったのは、「射出成形」「芯出し」のような専門用語だけではありません。
「段取り」「取り出し」「台車」「脚立」など、日本人の現場担当者が既知と考えやすい言葉も、一般的な日本語の授業では触れにくいものです。
「毎日、新しい言葉や漢字が出てきます。仕事で使う漢字は難しいです」
さらに、加工、成形、測定では必要な言葉が異なります。加工担当者が毎日使う言葉でも、測定担当者にはまだ必要でないことがあります。3名に同じ順番で同じ言葉を教えるだけでは、仕事と学習が結び付きにくいことが分かりました。
約200語を、仕事の順番に合わせて組み替える
ズイイチでは、安全、工具、部品、品質などに関する約200語のリストを用意していました。しかし、既存リストを本人たちと確認すると、現在の部署では使わない言葉も含まれていました。
本人たちも、仕事で実際に出てきた言葉を優先して調べ、復習していました。
「覚えるのが難しい言葉も、現場で実際に経験すると理解しやすくなります」
そこで今後は、次の順番に整理し直します。
- 全部署に共通する安全・作業上の言葉
- 現在の部署で頻繁に使う言葉
- その部署で必要になる高度な専門用語
- 異動前に学ぶ、次の部署の言葉
これは、すでに効果が確認された完成形ではありません。今回の取材から見えた、今後の教材改定方針です。
教材だけでなく、仕事の教え方も変える
日本語が発展途上の段階では、長い説明を先に理解すること自体が難しい場合があります。
「説明してから動かすより、見て覚えてから説明した方が、今は早いと思います」
まず現物を見ながら動き、経験した作業に後から言葉を結び付ける。定期的な業務レポートには先輩がコメントを返し、次に注意する点を伝える。こうした工夫が現場で行われています。
一方、現場側の「覚えが早い」「よくできている」という評価が、本人に十分伝わっていない可能性も見えました。改善点だけでなく、できるようになったことも伝える。それが本人の成長実感と、次の学習につながります。
今後は、個々の指導者の工夫に頼り切らず、確認方法、仕事の難度、部署別語彙、フィードバックを一つの受入れ運用として整えることが課題です。
早期戦力化を支える4つの条件
長津製作所の事例から見えるのは、次の4点です。
- 最初に任せる仕事を絞る
- 復唱・図解・途中確認で理解を確かめる
- 現在の部署で使う言葉から学ぶ
- 修正点とともに、成長も本人へ伝える
取材時点では受入れから数か月であり、長期定着や投資回収を評価できる段階ではありません。それでも、仕事の習得と日本語の習得を分けて捉え、現場で見つかった課題を運用と教材の改善につなげる姿勢は、他社にも応用できます。
外国人エンジニアをどの部署に配属し、どの仕事と日本語から教えるべきかを整理したい企業は、ズイイチまでご相談ください。